2013年5月31日金曜日

色とスポーツパフォーマンス

色は、スポーツのパフォーマンスに影響する。

このことを明らかにした研究は、いくつか報告されている。たとえば、古藤高良氏(環太平洋大学短期大学学長)はハードルの色と走記録の関係について紹介している。

一般に使用されているハードルは、白地に黒線である。実験では、赤、黄、青のハードルを加えて、小学校4年生の男子60名にハードル走をさせて、そのタイムを比較したのである。その結果を図に示した。

ふつう使用されている白地に黒線のハードル走タイムが125と、もっとも悪い記録であった。ハードル走タイムがもっとも良かったのは黄色のハードルを利用したときである。

2004年のアテネ五輪で行われたボクシング、テコンドー、グレコローマンスタイルレスリングおよびフリースタイルレスリングの4種目の競技について、英国のダラム大学がユニフォームに色(赤色と青色)と勝敗について研究している。

この研究によると、互いの選手が互角のときには赤色のユニフォームを着ている方が勝率が高くなる。

ダラム大学のRobert Barton博士は、赤いユニフォームを着用すると男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌が通常より高くなっていることから、心理的な高揚が高い勝率となった理由としてあげている。


柔道の場合には柔道着の色と勝敗の関係は認められない、という報告もあり、色とスポーツパフォーマンスの関係については、さらに検討する必要がある。

2013年5月26日日曜日

伊藤和磨 著 『アゴを引けば身体が変わる』

「こんな内容の本を出版できたらなあ」と思っているうちに、そんな内容の本が出版された、という経験をたびたび味わっている。今回もそうである。

かつてサッカー選手として活躍し、現在はパーソナルトレーナーとして活動されている伊藤和磨さんが著した『アゴを引けば身体が変わる  腰痛・肩こり・頭痛が消える大人の体育』(光文社新書)が出版された。

最後まで読み切っていないが、「まえがき」を読んだだけで私が書きたいと思っていた内容が柱になっていることが分かった。伊藤さんの著書の内容は実物を読んでいただければ分かるので、ここでは私の考えていることを記しておく。

私は大学で『コーチング科学A』、『スポーツ環境論』、『スポーツ科学入門』を担当している。どの授業でも、必ず指導する内容は「日常生活動作」についてである。

かつて大リーグの長距離打者であったサミー・ソーサーさんが試合中にくしゃみをしたことが原因で十数日間、選手登録を抹消されたことがあった。くしゃみのために腰痛になったためである。スポーツ選手の中には、ソーサー選手のように、ありふれた日々の動作が原因でけがをする者がいる。日常生活で起きるけがを予防するために「日常生活動作」を行なうときの正しい身体の扱い方を指導しているのである。

授業でこれまでに指導してきた内容は次のようである。
・「寝る」ときの体の操り方
・「座る」ときの体の扱い方
・「立つ」ときの体の扱い方
・「歩く」ときの体の扱い方
・「走る」ときの体の扱い方
・「跳ぶ」ときの体の扱い方
・「投げる」ときの体の扱い方
・「しゃがむ」ときの体の扱い方
・「かがむ」ときの体の扱い方

などである。それぞれの内容については、いつか、このプログを通して紹介したいと考えている。

2013年5月25日土曜日

三浦雄一郎さん、エベレスト登頂成功

三浦雄一郎さんが、80歳で世界最高峰のエベレスト(標高8848メートル)登頂に成功した。最高齢、最高峰登頂である。

総務省統計局のデータによると、日本の80歳以上の人口は789万人、総人口の6パーセントである。およそ100人に6人が80歳以上であり、三浦雄一郎さんの80歳はとくに高齢という印象はつよく受けない。

しかし、世界最高峰を登頂できた体力には感心する。三浦さん自身が述べているように、日々の生活習慣が高いレベルの体力を作り上げたのであろう。私は標高600メートルほどの山を散策することがあるが、それでも荷物を背負って歩くとそこそこに疲れる。8000メートル級の山に登るとなると、かなりの体力が要求されることは想像しただけでも分かる。
一般に体力は20歳代をピークに、それ以降は歳をとるごとに低下していく。このような加齢に伴う体力低下は、自然の成り行きである。

体力を要素に分けて、それぞれの要素の加齢による低下を見ると、図のようになる。

筋力のように加齢による低下が比較的ゆっくりしているものがあれば、バランスのように20歳から急激に低下するものもある。このような加齢による体力低下から判断すると、三浦さんは登山で必要なバランスの衰えを防ぐことに気を使ったのではないかと予想できる。

かつて三浦さんとお会いしたとき、30キロほどのリュックを背負い、3キロほどのアンクルウェイトを足首に巻いて、毎日歩いていると教えてくださった。30キロのリュックを背負えば、重心が高くなり、バランスが悪くなる。バランスが悪い状態で歩くことで、バランス能力が鍛えられていったと考えられる。


三浦雄一郎さんの快挙は、多くの高齢者に勇気を与えてくれたはずだ。ある目的を達成するために毎日の生活を律すれば、高齢者でもその目的を達成できることを証明してくれた。ありふれた言葉であるが、日々の積み重ねが年老いてもたいせつだということだろう。

2013年5月22日水曜日

筋力は何によって決まるのか

絶対筋力とは、筋断面積当たりの筋力のことである。

猪飼道夫と福永哲夫(1968年)は、超音波法で筋肉の断面積を測定し、(筋力÷筋断面積)によって筋断面積当たりの筋力を求めた。その結果、男女の区別なく、年齢(12歳〜20歳)に関係なく筋断面積当たりの筋力は6kgcmでほぼ一定であることを明らかにした。

猪飼らが明らかにしたことは、筋肉が同じ太さなら発揮される筋力は同じになるということである。

ところが、一般に女性よりも男性の方が筋肉は太いので、筋力は男性の方が大きくなる。

12歳から20歳までの間は筋肉が次第に太くなる時期である。そのために、12歳から20歳まで筋力は増大していく。

このように、筋肉が太いほど筋力は大きくなる。しかし筋肉の太さが同じでも筋力の強い人と弱い人がいる。この違いは、収縮に参加する筋線維の数が影響している。

筋肉は筋線維という細胞が多数集まってできている。筋線維の一本ずつに神経がつながっており、脳からの指令がきた筋線維が収縮して力を発揮する。筋力は、収縮する筋線維の数に比例するのである。収縮する筋線維の数が多いほど、筋力は大きくなる。筋肉が同じ太さでも筋力の強い人は、収縮する筋線維の数が多いのである。逆に、筋肉が同じ太さでも筋力が弱い人は、収縮する筋線維の数が少ないからである。


このようなことから、筋力は筋肉の太さと収縮する筋線維の数で決まることがわかる。

2013年5月21日火曜日

新著の紹介


私が監修した本が出版されました。
『運動が得意になる!体育のコツ絵事典』(PHP研究所)


子どもたちが運動を好きになってほしい、という強い思いからこの本を監修することを受けました。

なぜこのような思いをもったからというと、子どもたちが自分の体は自分で守ってあげることができるようになってほしいからです。

朝日新聞(2013521日朝刊)に、次のような記事が載りました。
「転んだ時に、うまく手をつけずに顔をけがする。そんな子どもたちが増えている。」

こんな子どもたちが増えている理由の1つとして、本来持つ運動能力を発達させられなくなっている、ことが紹介されていました。

この本のタイトルは『運動が得意になる!』ですが、ただ得意になるための方法を紹介しているのではありません。かけっこ、鉄ぼう、球技などの運動をするとき、身体動作を正しく行うことを覚えることに留意しました。自分の体を正しく動かすことを身につけることは、身を守るための体の動かし方を習得することにつながると考えたからです。

小学校や家庭でこの本を利用していただければ幸いです。

新著の紹介

私の新著『元気な体をつくる!かんたんタオル体操』(双葉社)が出版されました。
 
タイトルからわかるように、この本は身近にあるありふれたタオル1本で元気な体ができる体操を紹介している。

タオルを利用した体操に注目した理由は次の通りである。
①タオルを利用すると、筋力や柔軟性を高める運動が行いやすくなる。
②タオルを利用すると、関節の伸ばし過ぎを防ぐことができ、安全に運動ができる。
③タオルを利用すると、多様な運動を行うことができ、継続しやすくなる。

この本で紹介する体操~期待できる効果は次の通りである。
①筋力が高まる。
②体を引き締められる。
③関節の痛みを防ぐことができる。
④しなやかな体をつくることができる。

タオルの本来の役割は、水分や汚れなどをふき取ることである。でも、それだけの目的でタオルを使うのはもったいない気がする。

タオルは筋トレやストレッチングのためのトレーニング用品にもなるのである。この本を通して、タオル体操で元気な体をつくっていただくことをせつに願う。

2013年5月18日土曜日

不調は飛躍の時期


スポーツ選手は、好調な状態をずっと維持できない。好不調が繰り返し入れ替わる。天才打者のイチロー選手でも、1つのシーズンの間に打撃好調な時期と不調な時期を経験する。不調は、どの選手にでも起きるのである。不調になったとしても、そのことをことさら悩むことはない。

不調は、心身のバランスが乱れることである。心身が調和しないと、パフォーマンスは低下する。その結果だけみれば、スポーツ選手が不調を避けたがるもの当然だろう。ところが、不調は決して負の要素だけを持っているのではない。

実は、不調は心身のバランスを整えて、次のステージにすすむための準備期間である。

スポーツのパフォーマンスは、体力と技術と精神的要因が絡み合って生み出される。パフォーマンスをより高めるには、体力と技術と精神的要因の組み合わせを変えなければいけない。組み合わせを変えていくとき、最初は効果的にすすまないでパフォーマンスが低下する。ところがあるとき、組み合わせがうまく絡み合ってパフォーマンスが向上する。しかし、また組み合わせがうまくいかずにパフォーマンスは低下する。こんなことが繰り返されながら、パフォーマンスは次第に向上していく。

不調になったとき、あせることはない。より高いステージへ移るために準備している時期にある、と考えればよい。

スランプになったと思い悩んでいる選手をみていて、こんな考え方があってもいいのにな、と感じたのである。

2013年5月16日木曜日

脂肪は必要


脂肪が体に蓄積することを好む人はあまりいないだろう。たいていの人は、脂肪が増えるのを嫌がる。ひょっとすると、脂肪がまったくない体を目指している人がいるかもしれない。

体に蓄積する脂肪が増えると、高血圧、心臓病、脂質異常症などの病気にかかりやすくなる。症状が悪化すると、狭心症、脳梗塞などをおこして寿命を短くすることにもなりかねない。病気にならないまでも、太った体になってしまう。脂肪を嫌うのも分かる気がする。

しかし、ちょっと待ってほしい。体に脂肪があるのは、体を健全に働かせるために必要だからである。このことを忘れてはいけない。

体に蓄積している脂肪の主な役割は次のようである。
①生きるために必要なエネルギーを大量にたくわえている。
②生きるために必要な体温維持に貢献している。
③脂溶性ビタミンを運搬する。
④月経の発現をうながす。
⑤骨粗しょう症を予防する。

すなわち、体脂肪を落としすぎれば不健康になり、最悪の場合には生命にも影響することがある。

脂肪を落としたい気持ちは理解できるが、脂肪は私たちの健康維持に大事な貢献をしていることを忘れてはいけない。

これまでの研究によれば、おおよそ次の体脂肪率を保つのが健康のためによさそうである。
<男性>10〜20%
<女性>20〜30%

2013年5月14日火曜日

筋線維のタイプは取り替えられるか?


筋肉は、筋線維という細胞が集まってできている。筋線維に神経がつながっていて、脳から伝えられた刺激を受けると筋線維は収縮する。収縮するスピードは筋線維によって異なる。最も速く収縮する筋線維をタイプⅡx、次に早く収縮する筋線維をタイプⅡa、収縮スピードがもっとも遅い筋線維をタイプⅠという。体を動かす骨格筋は、この3つのタイプの筋線維でつくられている。

タイプⅡxが多い人は、短時間に爆発的な力を発揮する能力に優れており、短距離走、跳躍、投てきなどのスポーツに向いている。タイプⅠが多い人は、長時間にわたって力を出し続ける持久力に優れており、マラソンなどのスポーツに適している。

3つの筋線維の割合は人によって異なる。タイプⅡxが多い人がいれば、タイプⅠの多い人もいる。かりにタイプⅡxの多い人がマラソン選手になりたくて、タイプⅡxをタイプⅠに変えようとしたとしよう。これは可能なのだろうか。あるいは、筋線維のタイプの割合は生まれつき決まってしまっていることなのか。

この問題については、現在のところ次のように考えられている。

①   筋線維につながっている神経にも、スプリント型とマラソン型とがある。スプリント型の神経をマラソン型の筋線維(タイプⅠ)につなぐとスプリント型の筋線維(タイプⅡx)のように収縮スピードが速くなる。その逆も成り立つ。しかし、このような筋線維を取り替えることはスポーツ選手に実施することはできない。次のような方法なら、スポーツ選手が採用することができるだろう。
②   長距離走のような持久力を必要とするトレーニングを続けると、タイプⅡxが減ってタイプⅠが増えてくる。あるいは、筋力トレーニングを続けるとタイプⅡxからタイプⅡaに移行する。一般に行われているトレーニングで筋線維タイプを取り替えられるのである。

筋線維のタイプを取り替えることは可能なようだが、その変化はわずかであり、競技力を飛躍的に伸ばすほどの画期的な変化は期待できないということのようだ。