2013年10月17日木曜日

新著 『痛みやゆがみが解消する 20秒ストレッチ』

たいして忙しかったわけではありませんでしたが、ブログの更新を1カ月以上も滞ってしまいました。

久ぶりのブログでは、私の新著を紹介します。

『体がみるみるラクになる大人のストレッチ 痛みやゆがみが解消する 20秒ストレッチ』 (永岡書店) 1,300円

この本のタイトルに、あえて「大人」を含めました。

大人は、絶頂期にあった体力が下り始める時期にあたります。この時期に行う運動は、元気にあふれた若いころのようにがむしゃらであってはいけません。

安全かつ効果的に運動するために、運動の原理や原則を理解し、知的な手順で運動することが必要となります。「がむしゃら」から「知的」に運動することが、大人には欠かせない条件だと思います。

この本では、38ページにわたって、知的運動方法を実践するために必要な知識を紹介しています。

こういった知識に基づいたストレッチの具体的な方法についても、できる限りていねいに紹介しています。

後半の部分では、スポーツを行う大人のためのストレッチ方法についても紹介しています。

ストレッチを実践していただくのがいちばん好ましいことですが、運動する気にならない日はこの本を読むだけでも自分の健康について考える機会を得られることと信じております。

2013年9月4日水曜日

イチロー選手と年齢

イチロー選手が日米通算4000安打を達成した前後に、私はテレビ局や新聞社などの取材を受けた。取材のとき、必ず聞かれる質問は40歳間近のイチロー選手の体力などについてである。イチロー選手自身も年齢と体力の関係について問われている。

私の年齢についての考えは、イチロー選手と同じである。イチロー選手は「年齢への偏見がなければ」という言葉を使って、彼自身、まだまだプレーできることを表現していた。

多くの人たちが日常つかっている「年齢」は「暦年齢」のことである。生まれ年から数えた年齢である。誕生日を迎えるたびに年齢は1歳ずつ増す。暦年齢は戻すことも進めることも留まることもできない。誕生日ごとに確実に1歳ずつ年をとっていく。

年齢を表すのは暦年齢だけではない。「体力年齢」「骨年齢」「皮膚年齢」などもある。人の能力を暦年齢だけで判断するのは偏っている。何を評価したいかによって判断基準とする年齢を変えなければいけない。

野球選手として評価するとき、暦年齢だけでは判断できない。体力年齢などを利用することが重要となる。体力年齢は、概ね暦年齢に関係している。しかし、遺伝によって引き継がれた能力、トレーニング、生活習慣などによって体力年齢は変化する。同じ暦年齢でも、恵まれた遺伝子を持ちトレーニングに励む者の体力は優れたものとなる。逆に、遺伝子に恵まれずトレーニングもしない者の体力は、暦年齢が30歳でも体力年齢は60歳だということもある。

イチロー選手は、野球選手としての評価を暦年齢だけでするの年齢への偏見であり、野球選手として重要な体力年齢などで評価すべきである、ということを伝えてくれたように思う。

それにしても、イチロー選手の発言は要点だけ述べた一言であるが、その一言は深い内容を含んでいるのである、と感心するばかりである。

2013年8月25日日曜日

時にはまわりの自然を見ながら歩こう

私の自宅の前に水無瀬川がある。自然の川ではない。人工的に作られた川である。川は人工であるが、この川には鯉、名前のわからない小魚、亀、蛙などの自然の生き物が住んでいる。サギ、鴨などが飛来する。雀、鳩、カラスなども、この川のまわりにたくさんいる。

水無瀬川のほとりは、ウォーキングコースになっている。このコースを妻といっしょに歩き始めて3年になる。健康のためにウォーキングを始めたのである。ところが、いつの間にか、水無瀬川にいる生き物に出会うためにウォーキングに出かけるようになってしまったようだ。

生き物を見つけるたびに立ち止まり、しばしその姿を見ながら時を過ごす。だから、ひたすら歩き続けることはない。歩いたり、立ち止まったりしながら、ウォーキングをする。

体力の維持、肥満の予防のためであれば、たびたび立ち止まりながらのウォーキングは適さない。歩き続ける方が効果は高まる。

しかし、ウォーキングの目的は肉体への効果だけではないと思う。心によい効果を及ぼすことも、ウォーキングのたいせつな目的である。私たち夫婦が行なっている、しばしばウォーキングを中断して生き物との出会いで心の安らぎを得るウォーキングは、心理的ストレスを和らげてくれる。こんなウォーキングもいいものだと、最近つよく感じるようになった。

脇目も振らず、黙々とウォーキングをしている人は、一度、立ちどまりながらまわりの自然と触れ合う間を置くことをお勧めする。

2013年8月19日月曜日

村上春樹『東京奇譚集』を読む

インターネットでamazonを開き読みたい本探しをするのが、私の日課の一つになっている。

1週間ほど前、いつものようにamazonで本探しをしていたら、「肉親の失踪、理不尽な死別、名前の忘却・・・・・。大切なものを突然に奪われた人々が、都会の片隅で迷い込んだのは、偶然と驚きにみちた世界だった。」という宣伝文を発見した。私の心をとらえたのは「大切なものを突然に奪われた」という一文である。

私にとって大切なものは妻であり、家族であり、住処であり、仕事であり、自由であり、体力であり、健康であり、・・・・・、と数多くあげることになる。欲張りかもしれないが、本当にたくさんのものが私にとって大切なのである。もし、私にとって大切なものが突然に奪われたら、間違いなく思考は混乱するだろう。投げやりになり、冷静な対応ができないかもしれない。場合によっては、立ち直ることができないかもしれない。

この本(村上春樹 『東京奇譚集』新潮文庫)を通して、災害や事故で大切なものを突然に奪われたとき人間はどのように対応するのか、を私なりに考える機会を与えられた。

2013年8月11日日曜日

反応よりも筋肉の収縮力と収縮速度の衰えとの闘い

体力テストの中に「全身反応」テストがある。刺激を受けてから動作を開始するまでの時間を測る。この時間が短いほど、反応は優れている。

「全身反応」テストでよく利用されるのは、光刺激(光の点灯)を合図にできる限り素早く垂直跳びを行い、光刺激から足が床を離れる瞬間までの時間を測る方法である。

大学の研究室でゼミ学生らの全身反応時間を調べたことがある。私も被験者として参加した。66歳の私の全身反応時間はというと、平均すると0.300秒であった。この結果は、20歳の学生の多くよりすぐれていた。

ところが、私の垂直跳びは40cmであり、学生よりもかなり劣っていた。垂直跳びは筋力とスピードの能力が影響する。

全身反応と垂直跳び結果からわかることは、垂直跳びに比べて全身反応は加齢による衰えが少ないということである。このことは、多数の被験者から抽出した結果からも明らかである。

図は、20歳のときの値を100%として求めた全身反応と垂直跳びの年齢による変化である。

この図からわかるように、20歳から66歳までの衰え方は全身反応よりも垂直跳びの方が著しいのである。

イチロー選手を始め野球選手としては高齢に属する打者たちでは、反応の衰えもあるが、それ以上に筋肉の収縮力(筋力)や収縮速度の衰えを遅らせることが重要課題となる。

2013年8月2日金曜日

胸を張る

スポーツ選手は、その動作をなぜ行うのか。

新聞や雑誌に載っている選手の写真をみるとき、こんな疑問がしばしば浮かんでくる。8月2日の朝日新聞の夕刊にダルビッシュ投手(レンジャーズ)の投球時の写真が載っていた。

あごを軽く突き出し、左手を入れたグローブを左脇に置き、ボールを握った右手は後頭部のうしろにあり、そして胸を張った姿勢をとっている。そういえば、投手たちはダルビッシュ投手のように投球時に胸を張る。胸を張るのは一体なぜなのか。

脊柱は、頭の側から順に頸椎、胸椎、腰椎の3つの部分に分けれる。このうち胸椎を反らせたとき、胸を張った姿勢になる。胸椎を反らせると肩甲骨の動きがよくなり、肩関節を中心に上腕を大きく動かすことができる。ダルビッシュ投手たちが、投球のときに胸を張るのは上腕の動きを大きくするためである。

この仕組みを知らないと、胸椎を反らさせないで腰椎だけを反らせてします。この姿勢だと、上腕を大きく動かすことはできない。

ハンマー投げの室伏広治選手とトレーナーの咲花正弥さんが著した『ベストパフォーマンスを引き出す方法』(ベースボール・マガジン社)の中で室伏選手は「まねるのは理論であって形ではない」ということを指摘している。外から見た形だけまねようとしても、パフォーマンスを向上させることはむずかしい。たいせつなのは、理論をまねることである。

投手が胸を張ることを形だけでまねると、腰椎を反らせた姿勢をとることになる。理論をまねる人は、胸椎を反らせた姿勢を摂ることでパフォーマンスを高められるのである。

2013年7月25日木曜日

十種競技は人間の特性を生かしたスポーツ競技

人間が地球上で最高の運動能力を持っているのではない。動物の中には、人間をはるかに上回る身体能力の持ち主たちがいる。

地上最速の動物であるチータは、時速110キロ以上で走るといわれている。ス中を高速度で泳ぐバショウカジキの泳速度は時速100キロ以上である。

では人間が走ったり泳いだりするときの最高速度はどれくらいであろう。

まず、走速度からみてみよう。世界最速のウサイン・ボルト選手がトップスピードで走っているとき、時速44キロに達する。この速度はチータの4割ほどである。

泳ぐスピードはどうであろうか。競泳のセザル・シエロ・フィーリョ選手は50メートルを2091で泳いだ。この速度は時速8.6キロで、バショウカジキの1割にも満たない。

走るスピードも泳ぐスピードも、人間は動物に勝てない。では、ジャンプ力はどうであろうか。

脚力だけでもっとも高く跳んだのは、バスケットボールのデイヴィッド・トンプソン選手である。ギネスブック入りした垂直跳びの記録は122センチであった。これは身長の0.63倍の高さである。ところが、ノミは身長の9倍の高さを跳ぶ。ジャンプ力も人間が優れているとはいえない。

じゃあ人間の身体能力は総て劣っているのか、というとそうではない。走る、跳ぶ、投げる、泳ぐといったさまざまな身体能力を総合的に発揮できるのは、動物界で人間だけである。人間は総合的身体能力に優れ、ほかの動物は特化された身体能力だけが優れているのである。

走・跳・投を競い合う男子十種競技と女子七種競技は、まさに人間だけに与えられた総合的身体能力を競い合うスポーツだといえる。

2013年7月14日日曜日

フォロースルーはたいせつ

野球の投手は、ボールが手から離れたあとも腕を振り抜く。この動作を「フォロースルー」という。フォロースルーは、テニスのサーブでもサッカーのキックでも行われる。

速いボールを投げるためには腕を高速度で振り抜かなければならない。高速度で動く腕は勢いが大きいために、肩のまわりの筋肉に過度な負担をかけることがある。ときには肩の障害を起こす。こういった障害を防ぐには、腕を振り抜くとき伸ばされる肩関節のうしろ側の筋肉を収縮させて、腕を減速させることが必要となる。フォロースルーは、このような減速をおこして障害を予防するための重要な時間だといえる。

もちろん、急な減速も障害の原因となる。腕に大きな加速を与え、しかも障害防止のために適度に減速する技術が必要である。そのためには、どのような練習をすればよいのか。いかなるトレーニングがよいのか。いつか、その答えを見つけたい。

絶好調のときこそ「勢不可使尽」

自分でも信じられないほど絶好調のときを迎えることがある。何ごとも順調にすすみ、予想以上の成果が得られる。絶好調の人は、こういう時期が長く続くことを願っているのだろう。

絶好調は、実は破局への種がまかれている時期でもある。人間は、不調のときに不調が始まるのではない。絶好調のときに不調の扉が開かれるのである。だから、絶好調を迎えたら、調子に乗りすぎないで、やや控えめに行動することが良さそうである。

中国宗代の禅の高僧である仏果(ぶっか)禅師は、『碧巌録(へきがんろく)』の中で「勢不可使尽」という考え方のたいせつさを説いている。

仏果禅師は「勢不可使尽」(勢い、もし使い尽くさば、禍、必ず至る)と述べています。人間は調子に乗りやすい。しかも、このときに大きな失敗に至る種が芽を出し始める。絶好調は大失敗への出発点、くらいに考えて、調子に乗りすぎないことがたいせつだ、と仏果禅師は教えている。

スポーツでは「バーンアウト(燃え尽き症候群)」といって、予想外のすばらしい成績を出したとたんに意欲が失われて、競技から遠ざかる選手がいる。まさに「勢い、使い尽くすべからず」ができなかったときの状態を証明しているような気がする。

(参考文献)
松原泰堂『禅語百選 今日に生きる人間への啓示』(祥伝社、1983年)

2013年7月11日木曜日

競技スポーツには練習パートナーという脇役が必要

名脇役がいるから主人公が輝くのである。スポーツでも同じである。名選手の陰には、常に優れた練習パートナーという脇役が存在している。

スポーツ選手は、一人だけで強くなることは不可能に近い。競技力を高めるには、その選手の才能を引き出さなければならない。才能を引き出すとき、練習パートナーが大いに貢献することになる。

優れた練習パートナーは、主人公である選手が知らぬ間に才能を引き出させるように仕向けることができる。たとえば、テニスの練習パートナーは主人公がかろうじて打ち返すことができるコースにボールを打ち込んだり、苦手なコースにボールを打つことで、主人公の選手の隠された能力を引き出させる。

これまでコーチ、トレーナーなどが重視されて来たが、これからは練習パートナーの役割もより重要になるような気がする。

2013年6月30日日曜日

年をとると衰えやすい体力は何?

中日ドラゴンズの谷繁選手が、2013年6月29日の試合で、2831試合出場を達成した。歴代2位の記録である。出場試合数の日本記録は、野村克也氏の3017試合である。

こういった記録は長年の積み重ねの結果であり、記録を達成した選手はスポーツ選手としては高齢である。谷繁選手は42歳であった。野村氏は、45歳まで現役選手であった。

ところで、年齢が40歳を過ぎれば、どの選手であっても体力の低下が起きてくる。体力には、筋力、敏しょう性、持久力、バランス、柔軟性などがある。すべての体力が同じように衰えるのではない。加齢にともなって衰えやすい体力と衰えにくい体力とがある。

筋力と敏しょう性は、40歳代でもピークのときの90パーセントほどのレベルを保っている。ところが、柔軟性とバランスは40歳代ではピークのときの60パーセント程度しかない。40歳過ぎでも現役選手として活躍するには、柔軟性を保つためのストレッチングとバランスに必要な体幹筋の衰えを防ぐ筋トレが必要ということがわかる。


2013年6月23日日曜日

『若さを保つ51章』 新著発売

新しい著書が発売されました。中日スポーツ紙に10年間にわたって連載してきた記事から、51の話題を選んでまとめた本です。


最近の通信販売のCMで、よく見かける場面がある。中高齢者の年齢に?印がつけられていて、その人の見た目の若さを話題にしたあと?印がはずされると実年齢が映し出される。見た目は50歳代なのに実年齢は70歳代である。こういったCMが流れる背景には、若返りを願っている人が多いことがある。テレビCMだけではない。最近の出版物にも若返りを扱った者が多い。

年齢を重ねれば老いが起こるのが自然に理である。若返りを願うのは、自然に理に逆行することである。自然の流れに逆らえば、身体に無理が起こって健康障害につながることは容易に考えられる。

自然の流れに身を任せ、年齢を重ねるのにつれて老いることを素直に受け止める生き方が大切だと思う。この本は、老いを少しだけ遅らせることで、若さを保つための生き方や運動のしかたを紹介している。

手にとってお読みください。

湯浅景元 著
『若さを保つ51章』 中日新聞社 1,365円

2013年6月18日火曜日

足を活かす

野球の走塁は、基本的に足が速いほど有利である。そうであるなら、スポーツの世界でもっとも速く走る陸上競技100mのランナーに走塁させよう、と考える人がいても不思議ではない。現に、男子100mで10秒1の日本記録を樹立した飯島秀雄氏を、走塁のスペシャリストとしてロッテオリオンズが入団させたことがあった。

プロ野球に在籍した1969年から1971年の3年間の成績は、代走として117回起用され、成功した盗塁は23回、盗塁死は17回、けん制しは5回であった。期待された走塁のスペシャリストとしては、満足のいくものではなかった。

しかし、飯島氏が塁にいることが功を奏してこともあった。飯島氏を塁に置いたときの通算のチーム打率は.424、出塁率.494と好成績であった。日本一の走力をもつ飯島氏が塁にいることが、相手チームに大きなプレッシャーをかけたためであろう。

日本プロ野球界で走者として最高の選手は福本豊氏である。『世界の盗塁王』の異名をもち、通算盗塁数は歴代1位の1065個である。

現役中の福本氏は、速く走るために実際のシューズより5mm小さなシューズを履いていた(『スポーツシューズの本』、三水社)という。小さめのシューズを履くと、指先を押しつけてすぼめたような形にする。そうすると、地面を蹴る力は一点に集中できるので、大きな推進力を生み出すことができる。

いま私の教え子の一人は、足の研究をしている。足は体の中でも小さな部分であるが、この小さな足が全身を動かすための推進力を生み出す原点だといえる。速く走るためには、脚力が必要であるが、それと同程度に足の存在も重要なはずだ。脚力+足の活用度が、走力を決定するような気がする。

2013年6月8日土曜日

投球と胸の張り

投手がボールを投げるとき、上半身を反らすように胸を張る。肩関節を中心に上腕の可動を広くできるからである。

胸の張り具合を上腕の動きとの間には、独特の関係が認められている。背を丸めた姿勢で腕を真上に上げると、高く上げることができない。ところが反り身気味に胸を張った姿勢で腕を真上に上げると、高く上げることができる。

ある関節の運動は、体の別の部分の姿勢に影響されているのである。このことを理解していないと、腕が高く上がらないからと肩関節を動かすことばかりに目が向いてしまう。ときに肩を無理に動かして、肩痛などを起させることもある。

肩関節を中心に上腕を大きく動かしたければ、肩の動きに注目する前に胸の張り具合に注意を向けるのがよい。

ある関節の運動は体の別姿勢と連動しているのである。

運動前後の体重差チェックで熱中症予防

熱中症が起きやすい季節である。

熱中症は、尊い人命を奪うことがある。それだけに、熱中症予防には真剣に取り組まなくてはいけない。とくにスポーツを行う人は、汗によって体内の水分が大量に失われることが多いだけに、熱中症対策には十分に配慮することが必要である。

熱中症対策の代表的な方法は、水分を十分に補給することである。しかし、十分な量となると、どれほどでよいのか見当がつかい。そういう場合、運動前後の体重差を目安にする方法が勧められる。

たいては、運動後の体重の方が運動前より少なくなる。運動中に汗などで体内の水分が減るからである。運動前後の体重差が大きくなるほど、体内から失われた水分量が多いことを表す。

水分を失うことで起こる体重の低下の程度と症状の関係を表に示した。体重の減少が大きくなるほど、重大な症状が起こりやすくなる。


運動中に体重を計ることが大変だということは十分にわかる。でも大切な人命を守ることを考えれば、運動中にときどき体重を計って水分の補給量が十分かどうかを判断することは決して無駄とは言えない。

2013年6月6日木曜日

サプリメント

お手軽なものが好まれる。健康についてもその通りで、時間と努力を必要とする運動よりも、手軽なサプリメント(健康補助食品)で健康になろうとする人が多い。

サプリメントには、おもに3つの効果があると考えられている。1つは、栄養の補給、疲労の早期回復といった健康面での効果である。2つ目は、筋力の向上や筋量の増加という体力面での効果である。そして3つ目は、基礎代謝や脂肪代謝の促進というエネルギー面での効果である。

スポーツ関係者の間で、最近、話題になっているアミノ酸を含むサプリメントは、主に疲労の早期回復という目的で利用されることが多い。

アミノ酸は筋肉をつくっている成分である。筋肉をつくっている必須アミノ酸は20種類ほどあるが、そのうち最も多いのが分岐鎖アミノ酸(BCAA)である。このBCAAが疲労回復を早める働きをしている。

BCAAが疲労回復に及ぼす効果については、いくつかの研究で報告されている。たとえば、杉田正明氏(三重大学教授)は、BCAAを中心としたアミノ酸をとると疲労回復が早まることを報告している。さらに、アミノ酸摂取により強い練習後であっても3~5日後には同じ強度の練習ができる可能性がある、とも述べている。

アミノ酸を含むサプリメントは疲労回復に効果があるといわれるが、サプリメントはあくまで「補助食品」であることを忘れていけない。日々の食事から摂る栄養素の不足分を補うのが、サプリメントの本来の姿である。


サプリメントの利用でもう1つ注意することは、治療薬との併用である。
野田勉氏(東大阪大学短期大学部健康栄養学科)によると、フェルにアラニンなどの中性アミノ酸は、パーキンソン病治療薬・レポドバ(L-DOPA)との併用によって振せんや硬直などがおこる可能性を示唆している。

心配なときは、薬剤師や医師と相談してサプリメントの利用の可否を決めるのがよさそうだといえる。

2013年6月2日日曜日

仙骨座り

大学の授業や講演会では、聴講している人は椅子に座っている。話をしながら座っている人の姿勢をそれとなく観察していると、お尻を座席の前の方にのせて足を前に投げ出し、背もたれに背中をあずけ、頭を前に倒した姿勢が目につく。


こういう座り方は「仙骨座り」と呼ぶことがあり、仙骨の部分で体重を受ける。仙骨は、背骨と尾てい骨の中間にある骨である。

仙骨座りは、腰と首にかかる負担が大きくなることがある。そのために、首や腰の痛みを起しやすくなる。

「仙骨座り」をするのは、スポーツ選手にも見られる。試合中にベンチで椅子に座って待機している選手が「仙骨座り」をしているのを見た人は多いことだろう。

スポーツ選手たちは、トレーニングのときには最前の注意を払って体に大きな負荷をかける。しかし、トレーニングから解放された日常の生活では体に加わる負荷をできる限り小さくして体をいたわることが肝心だと考える。

椅子に座るときは仙骨と背骨を椅子の背に当て、腰とひざをほぼ直角に曲げた姿勢をとるのがよい。


ただし、腰椎にかかる負担は立位よりも座位の方が大きいと言われているので、椅子に長時間座り続けることは避けた方がよい。

2013年5月31日金曜日

色とスポーツパフォーマンス

色は、スポーツのパフォーマンスに影響する。

このことを明らかにした研究は、いくつか報告されている。たとえば、古藤高良氏(環太平洋大学短期大学学長)はハードルの色と走記録の関係について紹介している。

一般に使用されているハードルは、白地に黒線である。実験では、赤、黄、青のハードルを加えて、小学校4年生の男子60名にハードル走をさせて、そのタイムを比較したのである。その結果を図に示した。

ふつう使用されている白地に黒線のハードル走タイムが125と、もっとも悪い記録であった。ハードル走タイムがもっとも良かったのは黄色のハードルを利用したときである。

2004年のアテネ五輪で行われたボクシング、テコンドー、グレコローマンスタイルレスリングおよびフリースタイルレスリングの4種目の競技について、英国のダラム大学がユニフォームに色(赤色と青色)と勝敗について研究している。

この研究によると、互いの選手が互角のときには赤色のユニフォームを着ている方が勝率が高くなる。

ダラム大学のRobert Barton博士は、赤いユニフォームを着用すると男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌が通常より高くなっていることから、心理的な高揚が高い勝率となった理由としてあげている。


柔道の場合には柔道着の色と勝敗の関係は認められない、という報告もあり、色とスポーツパフォーマンスの関係については、さらに検討する必要がある。

2013年5月26日日曜日

伊藤和磨 著 『アゴを引けば身体が変わる』

「こんな内容の本を出版できたらなあ」と思っているうちに、そんな内容の本が出版された、という経験をたびたび味わっている。今回もそうである。

かつてサッカー選手として活躍し、現在はパーソナルトレーナーとして活動されている伊藤和磨さんが著した『アゴを引けば身体が変わる  腰痛・肩こり・頭痛が消える大人の体育』(光文社新書)が出版された。

最後まで読み切っていないが、「まえがき」を読んだだけで私が書きたいと思っていた内容が柱になっていることが分かった。伊藤さんの著書の内容は実物を読んでいただければ分かるので、ここでは私の考えていることを記しておく。

私は大学で『コーチング科学A』、『スポーツ環境論』、『スポーツ科学入門』を担当している。どの授業でも、必ず指導する内容は「日常生活動作」についてである。

かつて大リーグの長距離打者であったサミー・ソーサーさんが試合中にくしゃみをしたことが原因で十数日間、選手登録を抹消されたことがあった。くしゃみのために腰痛になったためである。スポーツ選手の中には、ソーサー選手のように、ありふれた日々の動作が原因でけがをする者がいる。日常生活で起きるけがを予防するために「日常生活動作」を行なうときの正しい身体の扱い方を指導しているのである。

授業でこれまでに指導してきた内容は次のようである。
・「寝る」ときの体の操り方
・「座る」ときの体の扱い方
・「立つ」ときの体の扱い方
・「歩く」ときの体の扱い方
・「走る」ときの体の扱い方
・「跳ぶ」ときの体の扱い方
・「投げる」ときの体の扱い方
・「しゃがむ」ときの体の扱い方
・「かがむ」ときの体の扱い方

などである。それぞれの内容については、いつか、このプログを通して紹介したいと考えている。

2013年5月25日土曜日

三浦雄一郎さん、エベレスト登頂成功

三浦雄一郎さんが、80歳で世界最高峰のエベレスト(標高8848メートル)登頂に成功した。最高齢、最高峰登頂である。

総務省統計局のデータによると、日本の80歳以上の人口は789万人、総人口の6パーセントである。およそ100人に6人が80歳以上であり、三浦雄一郎さんの80歳はとくに高齢という印象はつよく受けない。

しかし、世界最高峰を登頂できた体力には感心する。三浦さん自身が述べているように、日々の生活習慣が高いレベルの体力を作り上げたのであろう。私は標高600メートルほどの山を散策することがあるが、それでも荷物を背負って歩くとそこそこに疲れる。8000メートル級の山に登るとなると、かなりの体力が要求されることは想像しただけでも分かる。
一般に体力は20歳代をピークに、それ以降は歳をとるごとに低下していく。このような加齢に伴う体力低下は、自然の成り行きである。

体力を要素に分けて、それぞれの要素の加齢による低下を見ると、図のようになる。

筋力のように加齢による低下が比較的ゆっくりしているものがあれば、バランスのように20歳から急激に低下するものもある。このような加齢による体力低下から判断すると、三浦さんは登山で必要なバランスの衰えを防ぐことに気を使ったのではないかと予想できる。

かつて三浦さんとお会いしたとき、30キロほどのリュックを背負い、3キロほどのアンクルウェイトを足首に巻いて、毎日歩いていると教えてくださった。30キロのリュックを背負えば、重心が高くなり、バランスが悪くなる。バランスが悪い状態で歩くことで、バランス能力が鍛えられていったと考えられる。


三浦雄一郎さんの快挙は、多くの高齢者に勇気を与えてくれたはずだ。ある目的を達成するために毎日の生活を律すれば、高齢者でもその目的を達成できることを証明してくれた。ありふれた言葉であるが、日々の積み重ねが年老いてもたいせつだということだろう。