2023年4月21日金曜日

メモ(70) どちらが従順?

 飼い主は、犬を毎日散歩させ、決まった時間に餌をやり、催促されればボールを投げ、体調を崩せば病院に連れて行く。飼い主の方こそ犬の思い通りになっているのではなかろうか。どちらが従順なのか。実態は定かではないのである。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.84). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(69) 個性が伸ばせない仕組み

 重要なのは子どものころの教育だ。さいわい、日本人の子どもはほとんど、寝ろと言われれば寝、食べろと言われれば食べ、授業中座っていろと言われれば座るなど、大した理由もないのに命令に従わされてきた

途中、「個性を伸ばせ」と言われ、従順の道を捨てかけても、浴衣で登校したり、従業中編み物をしたりすると、「協調性がない」と注意されるから、個性を目指すのは断念する仕組みになっている。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.83). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(68) タイミング

何事にもタイミングというものがある。

結婚相手と一番良好な関係を保てるのは、二人が知り合う前だ。楽器の習得に一番熱意が高まるのは、楽器を買うときだ。禁煙の意欲が最も高まるのは健康診断を受けた直後だ。

学習意欲が一番高まるのは、入学前と卒業直後だ。次のピークは、子どもができたときだ。われわれはこどものころは教育されるのを嫌うが、大人になると教育熱心になる。自分の人生がうまくいかないのは勉強不足のせいだと思うからだ。何と言っても、自分が勉強するよりは子どもを叱って勉強させる方がラクなのだ。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.76). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(67) 自慢の理由

おっさんはあきらめない。「昔はよかった」「最近の若者はなっていない」と嘆き、時代が悪いと結論づけるのだ。悪いのは時代であり、教育であり、政治であり、スマホである。自分に問題があるという可能性は脳裏をよぎらない。まして、まわりが思っているように自分が無価値だとは夢にも思わない。無価値でないかという疑念を打ち消すために、懸命に自慢しているのだから。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.71). 文藝春秋. Kindle 版. 

2023年4月19日水曜日

メモ(66) 老化と口数

 歳とともに多くが変化するが、とくに顕著なのは口数の減少である。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.54). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(65) 脂肪の蓄積

 飢餓に備えて脂肪を蓄えているにしても、こんなに大量の脂肪を死ぬまでに使い切れるのか。どうしても貯める必要があるなら、脂肪の貯めすぎで成人病になるのはやめにしてもらいたい。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.52). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(64) 死ぬ直前まで元気で

年をとると筋力などが奪われるが、衰え方が激しすぎる。ここまでヨボヨボにする必要があるのか。どうしても死ななくてはならないのなら「パッと散る」でいいはずだ。徐々に衰える必然性がどこにある。三分あれば急死するには十分だ。死ぬ三分前まで元気でいる仕組みにしてほしかった。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.52). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(63) 筋力の衰え

筋力の衰え方は急速だ。筋力をちょっと使わないでいると、自然は「いらないの?了解!」と問答無用にバッサリ切り捨てる。その判断があまりにも速い。一年程度使わなくても衰えないようにできないのか。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.52). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(62) 自動車事故の防止法

事故を減らすには、自動運転に頼る必要はない。すでに衝突を避ける仕組みはできている。これに加えて、信号や標識を無視すると自動的に最寄りの高い駐車場に移動して一時間は動かないとか、薬物やアルコール、反射神経や血糖値をチェックし、合格しないと動かないとか、ちょっとでも危険運転やあおり運転をすると否応なく人里離れたところに連れて行き、十時間ほどドアを閉めたままテコでも動かなくなるなどの自動車を開発すれば、事故は減るはずだ。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.48). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(61) 最大の事故要因

事故要因を排除していくと、人間の介入を排除することになる。事故の最大要因は人間だからである。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.48). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(60) 自分のことはどれだけ分かるのか

自分の目や耳で確認できるのは氷山の一角にすぎない。自分の寝顔や後ろ姿、真上から見た姿は、自分では分からない。目のさめるようなハンサムである可能性も捨てきれない。

心については、情報量はさらに悲惨だ。自分が何を望んでいるかということですら、確固たる情報はない。ファッションでも食べ物でも、専門家が創出した需要や欲求をそのまま受け入れているし、映画や小説など、どこで泣かせ、どこで笑わせるか、計算通りに操られている。異性の好みでさえ、最近は人工知能に教えてもらう時代なのだ。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.35-36). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(59) 個人情報

 近年、個人情報の扱いは慎重になっている。名簿や緊急連絡網はなくなり、大学の合格発表は、氏名でなく番号でなされている。これほど神経質になっているくせに、なぜみんな平気で自分の名前と顔をさらしているのか不思議である。

土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.35). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(58) いかに生きるべきか

 「『いかに生きるべき か』と問う者がいる。これは自分の思うように生きるのでは なく、正しい 生き方、最善の生き方をだれかに教えてもらい、それに従おうとして いるのである。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.33). 文藝春秋. Kindle 版. 

2023年4月18日火曜日

メモ(57) 目指すべきは知識

弁論重視の風潮にプラトンは異を唱えた。スピーチ力を磨いても、人々に一定の思い込みを与えるだけだ。弁論術は、人々に受け入れられやすくする「迎合」にすぎない。目指すべきは、善さそうに見える物ではなく、何が善いかという「知識」だ。作るべきは、口当たりのよい料理ではなく、健康によい料理だ。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.27). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(56) スピーチ力って?

人を動かすスピーチ力が必要だというなら、演説巧みだったヒトラーが国民の心を 動かしてどれだけ悲惨な結果をもたらしたか、考えてもらいたい。歴史上、国民を 戦争に駆り立てたのは政治家の優れたスピーチ力だった。 (中略)人心は口先一つで簡単に動かされるのだ。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.26-27). 文藝春秋. Kindle 版. 


メモ(55) 多様性の時代

でもよかったですね。多様性の時代になって。最低の人も許容されますから」


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.23). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(54) スポーツマンシップ

もっと問題なのは「誓い」だ。高校野球では「スポーツマンシップにのっとり、正々堂々と」と宣誓するが、実際には盗塁、敬遠、隠し球など、卑怯なことのし放題だ。 そもそも相手をやっつけるという姿勢がスポーツマンシップなのか。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.21). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(53) 申し開き

また、「自分勝手なことをしない」という誓いは十分抽象的だが、これに「 やむをえない場合を除く」を付け加えると、何をしても「やむをえなかった」と申し開きできる。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.21). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(52) 毎日が「以下同様」

歳を取るにつれて、正月の過ごし方も一年の過ごし方も固定化してくる。日々新しい 経験をする若いころとは打って変わって、毎日が「以下同様」になる。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.20). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(51) 無欲

ホメロスなどの古典を原語で読めば人間の幅も広がると思って、文法書や辞書を揃え ていたが、とっくの昔に無駄になった。思えば何もかも達成しようとするのが強欲だった。無欲になるべきだ。期せずしてこれに気づいたことが人格の向上につながった かもしれない。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.18). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(50) 探し物は見つからない

探すのも一定時間内に制限しないと探し物で人生が終わってしまう。その ため、たいてい時間切れで探し物は見つからない。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.18-19). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(49) 定年後の時間は早い

実際に定年になってみると、仕事は激減したのに、時間をもて余すことも、退屈する こともない。それどころか、時間が足りない。   

忙しいわけではない。仕事は限界まで減らし、やるべき仕事もサボっている。それなのに時間が足りない。朝起きて、気がつくと夜だ。

時間がたつのが早すぎる。昨年の一年間は、年頭の抱負を考えているうちに終わっ た。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.17). 文藝春秋. Kindle 版. 

メモ(48) コロナ太りの困る点

 コロナ太りの困る点は、コロナが去っても脂肪は去らないことだ。


土屋 賢二. 長生きは老化のもと (文春文庫) (p.15). 文藝春秋. Kindle 版. 

2023年4月16日日曜日

メモ(47) 覚悟して死を迎える

漠然と死を待つほど、不安なものはないだろう。行先がはっきりしていれば、それがたとえどんな所であろうとも覚悟の決めようがある。覚悟して死を迎えるのと、不安のまま死んでいくのとでは、大きな違いがあるのではないか。

【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 178頁 

メモ(46) 生存が問題になる時代

 しかし、問題は「死」ではない。「死ぬまで生きる」ことだ。

死ぬのはそれほど難しいことではない。最近は「老衰」という表現が多く使われるようになった。

問題は「老衰」で世を去るまで「生きる」ことである。「第三世代」にとっては、「終活」や「死後」よりも「生存」が問題になる時代がやってきたのだ。


【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 131-132頁

メモ(45) 上瞼がたれ下がる

 高齢化の一つの現象は、目が細くなってくることだ。それは上瞼がたれ下がってくることに起因する。要するに眠たいような感じの目になることが多い。

瞼の筋力が落ちてくると、重力の原理にしたがって上瞼がたれ下がってくる。上方視界が次第にせまくなってくる。外部の情報がそれだけ減少してくるのだ。


【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 80頁

メモ(44) のぞましいボケ方

 「ゆるやかにボケる」「おだやかにボケる」「大事なところは後回しでボケる」、この辺が「のぞましいボケ方」のキモではあるまいか。

【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 66頁

メモ(43) 健康は義務ではない

 私の健康に関する練習は、必ずしも世間で言う健康のためではない。養生という表現のほうがぴったりくる一種の趣味である。道楽、といってもいいだろう。

面白いからやる。興味があるからやるので、努力でもなければ、勉強でもない。面倒なトレーニングはやらない。健康は義務ではないからだ。


【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 59頁

メモ(42) 水を意識して飲む

 試みに水を飲み下してみる。スムーズに自然に、気持ちよく喉を通過しただろうか。ときには何となく、水でさえも引っかかることがあるのだ。水が滑らかに通過する感覚は、その日によって違うことがある。あわててコップの水をガブ飲みして、ゴホン、ゴホンとむせたりした経験は、ほとんどの人があるはずだ。

水を飲むとき、水を飲むぞ、とちゃんと体に伝達する。意識して自然に水が喉を通過する感覚を記憶して、常にそれを意識する。


何度もやっているうちに、それが身についてくるだろう。「飲み込む」練習は、「常識的健康法」の第一歩なのだ。


【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 52頁

メモ(41) 嚥下をおろそかにしない

 口に入れたものを飲みこみとき、いちいち「さあ、これから飲み込むぞ」と、意識して自分に言いきかせて飲み込む人は少ない。

噛むことに注意を払う時は、そのことに集中しているのに、噛んだものを飲み込むのは自動的な作業のように思っているのだ。要するに「よく噛む」ことは、うるさいほど推奨されるのに、噛んだものを飲みくだす嚥下というプロセスは、ほとんど関心を払われない。


「噛むこと」は10回噛もうと100回噛もうと、そのことはべつに生命の危機にむすびつくことはない。噛む回数が少なかったりしても、精々、消化不良をおこしたり、胃の調子がおかしくなったりするくらいだろう。


しかし、「飲み込む」ことは、そうではない。誤嚥はまちがいなく命にかかわる重大事なのだ。


【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 47-48頁

メモ(40) 現代人の抱く不安

 現代人の抱く不安とは何か。

いろんな人に質問してみたが、結局は3つのKにおさまる。「経済」「健康」「孤独」の3項だ。


【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 34頁

メモ(39) 硬い体を上手に使う

 齢をとれば、自然に体が硬くなる。高齢者に硬化をふせぐ柔軟体操をすすめる企画記事が、しょっちゅう新聞に出ているが、私は疑問をもっている。

加齢とともに筋肉や骨や関節が硬くなっていくのは自然の理だ。それをリハビリ体操などで柔軟さをとりもどすのは悪いことではない。

しかし、年配者が頑固になるのも、体が硬くなるのも自然の理ではないだろうか。私はむしろ硬い体を上手に使うことのほうが、大事なのではないかと思っている。


【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 33頁

メモ(38) 継続するには

 もちろん医学的な数値が有効な場合もあるだろう。しかし、非科学的なようだが、自分で何か私をしばらくやって、それが続くということは、その人に向いていると考えていいのではないだろうか。

持続する、ということは大事なことなのだ。辛抱が足りないから続かないのではない。向いていないから続かないのだ。私はそう考えることにしている。


【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 27頁

メモ(37) その人に合った養生

 Aの人には効果があっても、Bの人にはまったく効かないという薬があるように、養生、健康に関してもそれがある。あるどころか、その人に向いた養生が、ほかの人にはマイナスになったりするのだから厄介だ。

【出典】 五木寛之 『シン・養生論』 幻冬舎新書 株式会社幻冬舎 2023年3月30日 第1刷 26頁

2023年4月14日金曜日

メモ(36) 鈍であり、楽天的であること

 完全でない人間の集まりだけに、この世はまた不条理に満ちている。理屈どおりに行かぬことばかりといっていい。

そこで一々腹を立てたり嘆いたりしていたのでは、これまた命が保たない。

「最善を得ざれば次善、次善を得ざれば、その次善を」とは、徳富蘇峰の大久保利通評だが、焦らず、辛抱して、じっくり立ち向かって行くことだ。いい意味で、鈍であること。そして、ある程度、楽観的であること。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 262頁

メモ(35) 人生とは

絶対正しいことや、絶対正しい人間が、この世に存在するはずがない。

すべては、不完全である。不完全だから、人間であり、不完全な人間が少しずつでも補いあって生きて行くのが、人生というものである。 

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 261頁

メモ(34) 年齢は単なるナンバー

 ラスベガスのホテルで、『かもめのジョナサン』の著者リチャード・バックと会う。

彼は、その二百五十キロ先の砂漠の町から、自家用小型飛行機を操縦して、会いに来てくれた。車が下駄代わりなら、飛行機は自転車代わりといった感じである。

バックは、いろいろ考えさせられる話を、たっぷり聞かさせてくれた。職業を転々としながらも、タイプライターだけは手放さなかったこと、作家は自己本位に徹しなければならぬこと、年齢とは単なるナンバーにすぎぬこと……等々。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 202頁

メモ(33) 自分の居場所

 札幌の書店で、八木義徳『男の居場所』(北海道新聞社)を買い、早速、読みはじめる。

定年近いサラリーマンのさびしげな表情は生活不安のためというより、自分の居場所を失うという欠落感のせいではないか、と八木氏は気づく。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 138頁

メモ(32) 平和の有難さ

 それにしても、このごろは、戦争のことは、見るのも聞くのも考えるのもつらい、という心境である。戦争待望論を唱える若い文士がいると聞いて、鳥肌の立つ思いがする。

平和の有難さは失ってみないとわからない、ということなのであろうか。失ってからでは、おそすぎるというのに。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 136-137頁

メモ(31) 「知る」ことが大切

 北の湖全勝優勝。これまでとはちがい、結構なことだと、うなずく思い。

というのも、村上龍「僕とミーハー的北の湖恋歌」(「小説現代」五月号)を読んでいたから。

疲れた同世代ばかり見続けてきた村上氏は、ある日、テレビで「見るからに若い闘争心あふれる面構えの相撲とりが相手をかち上げでぶっとばす」のを見て、自分の中にある「敗北感が一掃」されるのを感ずる。甘ったるくない北の湖が、「まさしく光り輝いて」見えた、ともいう。

氏のインタビューに答える北の湖の言葉がまたいい。

「相撲は人気が出たらダメ。人気出ないほうがいいすよ。そのほうが自分でも励みになるからね」

といい、ライバルは、と訊かれて、

「あれこれっていう特別なライバルはつくらないんすよ。番付発表があると、自分が当たる位置をパッパッと見て、よし、この十五人がライバルだ、って思いますよね。そしてこの相撲取りはこういう取り口でくるって研究してやりますね」

と答える。

その十五人の中には、北の湖にとって、とるに足りる相手も少なくないであろうのに、十分の情報を集めておいて、勝負しようというわけである。

はげしい稽古、規則的日課、節制等々、これなら強くて当然と思わせる話が続く。

こうした情報を知ることで、北の湖を見る目がちがってきた。

人は知ってみるもの。いや、人に限らず、「知る」ということは、わずかずつでも、人生の愉しみを増してくれる。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 119-120頁

メモ(30) おくれて読む

 心をこめて書かれた記事は、時間が経てば経つほど、くさり行く記事群の中で荒野の星のように光を増して行く。いま、わたしは新聞もつとめておくれて読むように心がけている。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 109頁

メモ(29) 鈍行

いつだったか、家族で北海道旅行のとき、景色のよいところを急いで通りすぎることはないと、鈍行を利用した。                                  

おかげで、ゆっくり駅弁をつかいながら、雄大な景色を眺め、さらに当時、鈍行はまだ蒸気機関車だったため、汽車の旅を堪能した。いまとなっては、子供たちにとってかけがえのない思い出となっている。 

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 76頁

メモ(28) ペースダウン

 後の座席には、父に届ける盆栽や酒を積んでいるため、速度を落とし、三千回転で八十キロ強を保つ。かなり西風が強い。

走っていて、びっくりするほど運転が楽なのに気づく。神経を使うことがなく、まるで疲れない。東名をずいぶん通っているのに、はじめての経験である。というのも、これまでは、いつも百キロで走っていたためで、二十キロの減速が、これほど楽なものだとは思ってもみなかった。まるで別の道路、別の軌道を走っている感じなのだ。沿道の風景までも、ちがって見えてくる。

人生そのものにも、同じことがいえるのではないか。ありふれた速度から二十キロのペースダウンをすることで、まるで新鮮で快適な人生がひらけるのではないか、と思ったりする。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 35頁

2023年4月11日火曜日

メモ(26) 率直

 空港へ向かうタクシーの中で、ラジオは流感について、医師へのインタビュー。終わりに「予防法は」と訊かれた医師、一瞬ためらって、「実はわたしも流感にやられたので大きなことはいえませんが」と、はずかしそうにことわりながら、着ている物の調節をこまめにすること、よく休養をとること、などをあげる。率直な感じで、かえって素直に聴くことができた。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 29-30頁

メモ(25) 役所の使命

 「役所というのは物事が悪くなった場合をいつも考えたがるもので」というのだそうだが、悪くならないように考えることこを役所の使命ではないのか。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 17頁

メモ(24) 生きた学問

 いまひとつのインタビューは、毎日紙上で桜田日経連会長。内容以上に、その言い方がおもしろい。福田首相について、

「学校を出てから一回も実業でメシを食ったことのない人に、生きた経済学がおわかりになるはずがない。そんなことを要求するのは、それはムリだ」

「黒字にするといっておいて、その十倍の赤字を出すなんてことすれば、ビジネスマンならもうつきあってくれない。内閣スタッフの見識、おそるべきものだ」等々。

はらにすえかねての直言のようだが、それが何となくコミカルにひびくのは、内輪げんかが大通りまでひびき渡る感じだから」であろう。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 16-17頁

メモ(23) 松永安左エ門

夜、手もとにあった雑誌「選択」を読むと、小島直紀氏が松永安左エ門について書いておられる。

七十六歳のとき、トインビーの『歴史の研究』十巻を英文で、、青や赤のアンダーラインをひきながら読破。八十歳でロンドンに出かけ、トインビーを訪ね、その翻訳権を個人でゆずり受ける。その四年後、夫人を亡くしたときには、世間に全く知らさず、ひとりで葬儀をすませた。世間に迷惑をかけたくない、それに、「世間の妻ではなく、自分自身の妻なのだから、自分だけでねんごろに葬りたい」という気持ちではなかったかと、小島氏は書く。

松永記念館もよかったけれども、わたしには、こうした文章こそ、松永さんが生きてわれわれに語りかけてくるのを感じる。 

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 15-16頁

2023年4月9日日曜日

メモ(22) 生命の洗濯

 全然目的なしに、ただ、知ることそのもののよろこび故に知を求め、美しさそのもののたのしさ故に美を追求する。そうした世界へ時折逃げ去って人の世をも、人をも一切忘れて、放棄して、生命の洗濯をすることが許されなかったら到底息が続きそうにもない。

【出典】 神谷美恵子 『神谷美恵子日記』 角川文庫 株式会社KADOKAWA 令和4年11月30日 16版 63頁

メモ(21) 失敗

 自らおかした失敗にもめげず、その失敗の結果を雄々しく負いながら、更に高いものめざして立上って行こうとする人を誰が蔑むことが出来ようぞ。

【出典】 神谷美恵子 『神谷美恵子日記』 角川文庫 株式会社KADOKAWA 令和4年11月30日 16版 61頁

メモ(20) 克服

 どんなに人間や人生に悲しい面や汚い面があろうとも、私はやっぱりそれらの中から美しいもの浄いものを昇華して、それを歌って行きたいとけさあらためて強く強く希った。汚いものや悲しいものさえ、そのままうけ入れてこれを消化して、美しく浄いものに作りかえるほどの広さと深さを持った人になれたら!霊魂が肉体なしには存在し得ぬと同じように、善もまた悪を克服しての善でなくては力がないのだから。そして克服ということは、避けることでも拒むことでもない。受け入れて、こちらのcause(大目的)のために利用してしまうことだ。

【出典】 神谷美恵子 『神谷美恵子日記』 角川文庫 株式会社KADOKAWA 令和4年11月30日 16版 60頁

メモ(19) 私のわるい点

 私のわるい点ー

 自らを甘やかすこと、

 人の前に、自分を実際よりよく見せること。

 自分の主観的な感じをしゃべりすぎること。

【出典】 神谷美恵子 『神谷美恵子日記』 角川文庫 株式会社KADOKAWA 令和4年11月30日 16版 55頁

メモ(18) 熱意が足りない

 「あんまり考えない事ですな、考えていると結局何もしなくなっちゃうからね」

「要するに熱意がまだ足りないんだな」

立川先生はこう仰ったっけ。

【出典】 神谷美恵子 『神谷美恵子日記』 角川文庫 株式会社KADOKAWA 令和4年11月30日 16版 50頁

メモ(17) 固定化を恐れる

 今朝は御飯前またベルグソンをよんだ。ここでの日課の一つ。哲学を読む事は一生止めまい。哲学は思考硬化を防いでくれる。たえず新鮮に「自分の頭で」ものを考えさせてくれる。思索のためには哲学、感性のためには詩が絶えず血液の循環を新たにしてくれるのだろうと思う。固定化してしまうことーこれが如何なる方面についても私のもっとも恐れるところである。

【出典】 神谷美恵子 『神谷美恵子日記』 角川文庫 株式会社KADOKAWA 令和4年11月30日 16版 48-49頁

メモ(16) 不得意なこと

 きょう『アミエルの日記』がふとなつかしくなって繰っていたら、人間は何でも自分に欠けているものを強調する傾向があると書いてあった。観念的な人間は具体的なことの重要さを説くものだ、とあった。何だか自分のことを言われているような気がした。不得意なことを強いてやろうとしたり自分の教養にあいている孔(あな)を何もかも埋めようとしてあまりあくせくするのはもう止めようと思った。

【出典】 神谷美恵子 『神谷美恵子日記』 角川文庫 株式会社KADOKAWA 令和4年11月30日 16版 45頁

2023年4月8日土曜日

メモ(15) ジジババ合戦、最後の逆転

 ばあさんは独りでも生きられる、一生、生活技術をみがいてきたからだ。ところが、金をもうけてくる以外、家庭の生活技術をみがいてこなかった衣も食も全くといっていい程あつかえぬじいさんは子供同然で何も出来ない。着ることも、食うことも出来ない。おまけに金も半分とり上げられたとなると、心細さによよと泣くより仕方がない。面白いね、これ。

【出典】 富士正晴 『ジジババ合戦、最後の逆転』: 鶴見俊輔・編『老いの生きかた』 ちくま文庫 1999年5月20日 第二刷 p.84 

メモ(14) 若さと老年

 精神の若さを、ちらかさないように老年の時期まで一つにまとめて整理し、清新なままにしておくことは可能であるが、肉体の老年は、たとえ、それが生身の若さで輝く輝くようにみえることがあっても、どうにも手のほどこしようのないものである。老年が肉体の衰亡、変化を旧態に止めようとして費やすむなしいあがきほど、みていて気の毒なものはない。容姿の落魄は、修飾するほど醜くなる。

【出典】 金子光晴 『若さと老年』: 鶴見俊輔・編『老いの生きかた』 ちくま文庫 1999年5月20日 第二刷 p.97 

メモ(13) 老年と判断

 われわれは、老年という自然の変質に、何もかもさらわれて、そのために判断までも退化させてはならない。

【出典】 モンテーニュ 『老齢は強力な病気』: 鶴見俊輔・編『老いの生きかた』 ちくま文庫 1999年5月20日 第二刷 p.101 

メモ(12) 老齢は強力な病気

老齢は強力な病気であり、自然に、知らないうちに進んでゆく病気である。われわれにのしかかるこの病気のいろいろな欠陥を避け、あるいは、少なくとも、その進行を弱めるためには、非常な努力と用心を払わなければならない。

 【出典】 モンテーニュ 『老齢は強力な病気』: 鶴見俊輔・編『老いの生きかた』 ちくま文庫 1999年5月20日 第二刷 p.106-107 

メモ(11) 耄碌寸前

 今から老の短日を過ごすために、世間の老人並みに草花をいじろうと思っても、その草花の名が覚えられるかすら覚つかない。暇つぶしに人の好んでやる碁将棋の類は天性甚だ不得手で慰みにならない。どうやら、これからの私は家族の者にめいわくをかけないように、自分の排泄機能をとりしまるのが精一杯であるらしい。

【出典】 森於菟 『耄碌寸前』: 鶴見俊輔・編『老いの生きかた』 ちくま文庫 1999年5月20日 第二刷 p.138 

メモ(10) 小さくなる親

 個人差はあるにしても、人間に限らず、すべての生物は老年期に入れば衰え始め、それは子供の見る親の場合でも変わらない。変わらないどころか、自分の親だからこそ衰えがはっきり判り、生命の終わりの然程遠くないのを知る。成年時代の力はなく、重い物を持とうとしても容易に腰が切れない。そしてこうした衰えは精神にも可なり顕著に現われ、根気がなくなり、記憶力や判断力もあやしくなり、そのために精神の均衡が破れて苛立ったり、逆に諦めが早くなったりする。詰りは総合的に人間存在としては小さくなる。

【出典】 串田孫一 『小さくなる親』: 鶴見俊輔・編『老いの生きかた』 ちくま文庫 1999年5月20日 第二刷 p.158 

2023年4月7日金曜日

メモ(9) 読書と実践

 すなわちわれわれの人間生活は、その半ばはこれを読書に費やし、他の半分は、かくして知り得たところを実践して、それを現実の上に実現していくことだとも言えましょう。

出典:森信三 『運命を創る 「修身教授録」抄・10話』 致知出版社 平成23年5月31日 第1刷 44頁

メモ(8) 着手する

 まず真先に片付けるべき仕事に、思い切って着手するということが大切です。この「とにかく手をつける」ということは、仕事を処理する上での最大の秘訣と言ってよいでしょう。

出典:森信三 『運命を創る 「修身教授録」抄・10話』 致知出版社 平成23年5月31日 第1刷 65頁

メモ(7) 中央突破

 実際あれこれと気が散って、自分がなさねばならぬ眼前の仕事を後回しにしているような人間は、仮に才子であるとしても、真に深く人生を生きる人とは言えないでしょう。

もし諸君らの中に、私のこの言葉をもって、「これは自分のことを言われている」と感じる人があったとしたら、今日限りその人はいわゆる散兵方式を改めて、自分の全エネルギーを一点に集中して、中央突破を試みられるがよいでしょう。

出典:森信三 『運命を創る 「修身教授録」抄・10話』 致知出版社 平成23年5月31日 第1刷 68‐69頁

メモ(6) 人生二度なし

 そもそもこの世の中のことというものは、大抵のことは多少の例外があるものですが、この「人生二度なし」という真理のみは、古来只一つの例外すらないのです。

出典:森信三 『運命を創る 「修身教授録」抄・10話』 致知出版社 平成23年5月31日 第1刷 146頁

メモ(5) 二度とない人生

 われわれは、わずか一日の遠足についてさえ、いろいろとプランを立て、種々の調査をするわけです。しかるにこの二度とない人生について、人々は果たしてどれほどの調査と研究とをしていると言えるでしょうか。

出典:森信三 『運命を創る 「修身教授録」抄・10話』 致知出版社 平成23年5月31日 第1刷 151頁

2023年4月5日水曜日

メモ(4) 私でありたい

 私の本領とする処がパパとも兄様ともあくまでもちがう事が実にはっきりして来た。私は人とのリレーションシップ(関係)、しかも最も密接な関係に於て最も私たる所以を発揮する。私の創られた目的、私のオリジナリティーはどうしても其処にある。そして人間の内面世界にひたすら目をむけて行動するなり書くなりするのが私の仕事だ。ああ、今私は「私でありたい」純然たる願いで一杯だ。かり着で生きる事だけはしたくない。

出典:神谷美恵子 『神谷美恵子日記』 角川文庫 株式会社KADOKAWA 令和4年11月30日 16版 18頁

2023年4月4日火曜日

メモ(3) 虚しい科学

 ”科学”を語る時、数値化された部分だけを取り上げて見るのではなく、人間全体を眺める視点に立ちながら語るのでなければ、それは身もない虚しい科学でしかありません。

出典:『地湧きのことば』 地湧社編 地湧社 2002年12月20日初版 14頁

メモ(2) 自分独自なもの

 独創的な音楽とは坂本さん(註:坂本龍一さん)にとって何だったか。思いついたことを思うがまま白い紙に塗りたくることでは、と後年インタビューで問われ、答えている。「それはだめだな」。自分で発明したつもりでも、何かと似ていることはしょっちゅうあるという。「過去の真似をしないため、自分の独自なものをつくりたいから勉強するんですよ。(川村元気著『仕事。』)。真似ないために過去を学ぶ。凡人の及びもつかぬ努力を重ねたのだろう。

出典:『天声人語』 朝日新聞2023年4月4日朝刊

2023年4月3日月曜日

メモ(1) 「転載」の豊かさ

 『自分史つうしんヒバクシャ』(編集・発行 栗原淑江)第二二五号が届きました。(中略)    この小冊子は、永年ひとりの女性によって続けられてきたものです。その時どきの世界的、国内的な核情報の要約から、生活感の滲む短章まで、愛読してきました。とくに際立っているのは、毎号よく選ばれている「転載」の豊かさです。

出典:大江健三郎 『定義集』 朝日新聞出版発行 2016年11月30日第1刷 278頁