北の湖全勝優勝。これまでとはちがい、結構なことだと、うなずく思い。
というのも、村上龍「僕とミーハー的北の湖恋歌」(「小説現代」五月号)を読んでいたから。
疲れた同世代ばかり見続けてきた村上氏は、ある日、テレビで「見るからに若い闘争心あふれる面構えの相撲とりが相手をかち上げでぶっとばす」のを見て、自分の中にある「敗北感が一掃」されるのを感ずる。甘ったるくない北の湖が、「まさしく光り輝いて」見えた、ともいう。
氏のインタビューに答える北の湖の言葉がまたいい。
「相撲は人気が出たらダメ。人気出ないほうがいいすよ。そのほうが自分でも励みになるからね」
といい、ライバルは、と訊かれて、
「あれこれっていう特別なライバルはつくらないんすよ。番付発表があると、自分が当たる位置をパッパッと見て、よし、この十五人がライバルだ、って思いますよね。そしてこの相撲取りはこういう取り口でくるって研究してやりますね」
と答える。
その十五人の中には、北の湖にとって、とるに足りる相手も少なくないであろうのに、十分の情報を集めておいて、勝負しようというわけである。
はげしい稽古、規則的日課、節制等々、これなら強くて当然と思わせる話が続く。
こうした情報を知ることで、北の湖を見る目がちがってきた。
人は知ってみるもの。いや、人に限らず、「知る」ということは、わずかずつでも、人生の愉しみを増してくれる。
【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 119-120頁
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