2023年4月14日金曜日

メモ(28) ペースダウン

 後の座席には、父に届ける盆栽や酒を積んでいるため、速度を落とし、三千回転で八十キロ強を保つ。かなり西風が強い。

走っていて、びっくりするほど運転が楽なのに気づく。神経を使うことがなく、まるで疲れない。東名をずいぶん通っているのに、はじめての経験である。というのも、これまでは、いつも百キロで走っていたためで、二十キロの減速が、これほど楽なものだとは思ってもみなかった。まるで別の道路、別の軌道を走っている感じなのだ。沿道の風景までも、ちがって見えてくる。

人生そのものにも、同じことがいえるのではないか。ありふれた速度から二十キロのペースダウンをすることで、まるで新鮮で快適な人生がひらけるのではないか、と思ったりする。

【出典】 城山三郎 『わたしの情報日記』 集英社文庫 集英社 昭和61年10月25日 第1刷 35頁

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